珈琲プリンスと苦い恋の始まり
呼びかけたが、さっさと電話を切ってしまい、かけ直しても通話中で話にもならない。


「…くそっ!」


こんな時に…と悔しくなる。

此処の経営が思ってる以上に順調なもんだから、俺以外の人間が店長をやっても平気そうだと判断を付けてしまったんだろう。


「こっちの気持ちも考えないで!」


俺が此処で過ごす時間を楽しんでるのも知らないで、また新たな土地に送り込んで、其処で一から始めればいいくらいに考えてるんだ。


「俺は親父の歩兵かよ!」


ダン!と店の地面を蹴飛ばした。
店内を見回しながらあれこれと思案し、この場所だけは絶対に離れたくないと感じた。


(此処は俺のユートピアに近いんだ…)


長いこと、いろんな店で働いてきた。
父に言われるままに動かされ、いろんな客層を相手にした。


…だが、此処ほど多層ではなかった。
客層はある程度限られていて、それに合う物だけを出してきた。

でも、此処ではそれ以外のことが出来る。
客層に応じて豆の種類も変えれて、本当に合うものが出してやれる。


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