珈琲プリンスと苦い恋の始まり
運転席でシートベルトを締めて玄関先を見遣れば、女性は既にセンターの中に入ったらしく、さっきまでいた場所には誰一人として立ってない。


俺はそれに一抹の物足りなさを覚えつつも気にしても仕様がないと頭を切り替え、エンジンを掛けて発進させた__。




二回目の出張喫茶店が終わった後、センターの社員達から呼び止められ、反省会という名の打ち上げに参加をすることになった。


「利用者の方から『喫茶店の名前は何て言うんだい?』と訊かれたんですよ。マスターのお店の名前は『White moon』だけど、それをこの場所でも使っていいかどうかが分からなくて」


事務所で総務の仕事をしている藤枝さんという女性は、「どうでしょうか?」と窺うような視線を俺に向けてくる。


「そうですね……私としては珈琲豆のランクも下げてますし、店名をそのまま使用されては少々不味いところがあるんですが」


これはあくまでも俺が個人的に行っていることだ。

だから、白川珈琲店の代名詞でもある『White』を看板に掲げてはいけない様な気もする。


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