珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「おーい、これは何だ?」


また何かを見つけたらしい。
本当に探究心が強いな…と呆れ、どれ?と言いながら近付いた。


「引っ掛かった」


側へ寄ると彼がぎゅっと抱き締めてきて、私はビクッと背中を伸ばした。


「離して」


驚きながらも冷静に言うと、彼は「嫌だ」と言って笑う。


「痴漢行為で訴えるよ」


「警察に言っても恋人への求愛行動だと言えば笑って済まされるよ」


「恋人じゃないから」


「でも、キスはした」


「それは貴方が弾みでしたんでしょ。私はそれをただ受け止めただけ」


「じゃあもう一度やり直そうか。今度はちゃんと目を見て好きだと言うから」


「結構です!とにかく離して!」


腕を伸ばして彼との距離を空ける。

彼は意外にもあっさり諦め、詰まらない…と言いながらも私のことを解放した。

体が解き放たれると隙間風を感じる。
包まれていた背中や肩の辺りに触れる夕凪を感じ、温もりが消えてなくなるのを覚えた。



「愛花さん?」


顔を覗き込まれてハッとする。
何でもない、と背を向け、沖合を走る漁船を撮ろうとカメラを向けた。


「待った」

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