珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「そろそろ帰ろうか」
一生懸命トビを追ってると声がした
振り返ると彼が笑っていて、キュン…と胸が鳴った。
「もう日が沈んだし、暗くなるよ」
家に帰るんだろう?と訊かれ、そうだった…と思い出した。家に帰って、今朝のことや昨夜のことを弁解しないといけないんだ。
「ん…」
不意に目の前に手が差し伸べられる。
それを見て首を捻ると「手を貸して」と言われた。
「先導する。君はそのままカメラを構えて、撮りたいものがあれば撮ればいい」
片手でもシャッターは切れるだろう?と言うものだからキョトンとした。
子供でもないからいいと断ったが、勝手に手を繋いで歩きだした。
砂を踏み込む度に力がこもり、時折ぎゅっと掴まれる。
私は無言のままその手を見つめ、少しだけなら撮ってみたいかも…と思った。
永遠に無くなって欲しくない温もりのように思えていた。胸が強く締め付けられて、痛くて何だか切なかった__。
その後、やっと自分の車で帰路に着いた。
車内でも彼の掌の感触が残ってて、力強くて頼もしかったな…と感じた。