珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「あの……マスターは?」


私は椅子を引きながら問いかけた。
山本さんを始めとする調理員さん達は「それがね…」と声を潜めて顔を曇らす。
私は何だか嫌な予感がして、何かあったんですか?と訊き返した。


「愛花ちゃんは何も知らないのかい?マスターがこの店を離れるかもしれないってこと」


「ええっ!?」


「私達もさっきあの人から聞いたんだけどね、あのマスターはどうやらこの店のオーナーの息子らしくて、しかも、他にも店を沢山持ってるくらい大きな会社を経営してるらしいんだよ」


「それで、マスターはそこの御曹司らしくてね、今度また別の店の出店が決まったんだって」


「マスターはその店に出向くことになってるそうだよ。新店を任されて経営を安定させていくのが、あの人の主な仕事なんだって」


「今は、新しい店についての会議が本社で開かれてるそうだよ。マスターはそれに出席中だけど、その会議が済んだら即座に新店に向かわされて、二度と此処には来ないだろうと言ってたの」


次から次へと出てくる話に耳を疑い、私は何も言えずに眩暈を感じた。


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