珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「まあいいじゃいですか。理由なんてものは探らなくても」


武斗にも話したくない訳があるんですよ、と援護し、思いきって別の人材を派遣して育成するのも悪くないことですよ、と兄が進言した。


「いずれは、武斗も上層の役職に就かなければいけなくなるんです。今くらい暇を与えて、その為の英気を養っておくのもいいと僕は思ってるんですけどね」


ウインクをして見せ、俺は兄貴に感謝した。


「だったらお前が行くか?」


兄貴に問う父に笑いかけ、「まさか」と真顔で拒否する。


「僕は行きませんよ。新店は田舎なんでしょ。そんな所へ行くと言ったら、速攻で妻から離縁されます」


兄貴の嫁は都会生まれの都会育ちだ。
本社絡みの相手で、政略結婚をさせられている。


「ならば、やはり武斗が適任なんじゃないか?今のところ、こいつ以外に必ず利益を上げられそうな者が見当たらない」


どうやら親父はちゃんとまともに俺を評価して言ってるみたいだ。
それにはまあ有難い気持ちも無くはないが、今此処でYESとは絶対に言いたくない。


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