珈琲プリンスと苦い恋の始まり
（どうしてだ。俺があの店を退いたとでも思ってるのか？）


それなら着信を拒否する前に掛けてこいよ。
俺がどんな苦渋の決断をして、この地に出向いてるかを教えてやるから。


イラッとしても始まらない。
彼女の元に帰ろうと思うなら、本当に死ぬ気で蓮見を育てないと駄目だ。


幸いながら、蓮見は営業職をしていたお陰もあって、商品の知識だけは豊富だった。
どんな豆がいいかも知っていて、前のブレンドについても詳しい。

後は美味い珈琲の淹れ方を伝授して、経営が上手く回っていかない時の発想の転換方法を教え込んでやればいいだけだ。


「上手く淹れるには、珈琲の粉をしっかりと蒸らして泡を消さないようにするんだ」


豆によっては細かな泡が立たない物もある。
けれど、それもお湯の温度や注ぎ方次第で、どんなに初心者でも次第に上手く淹れられるようになる。


「毎日何杯でもいいから淹れて覚えろ。味見をしながら淹れ方を変えて、豆に合ったお湯加減を覚えるんだ」


ほぼ職人だな、と言うと、うへぇーと声を上げる。
それでも蓮見はやるしか無いと思ってるのか飲み込みも早くて、俺は安心して見ていられた。


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