珈琲プリンスと苦い恋の始まり
オープンからの一月間はあっという間だった。

蓮見は営業で培った物腰の柔らかさと接客態度の良さで常連客を着々と増やし、経営的にも安定した儲けを出せそうだと判断した。


「蓮見さんは流石だな。話も上手いし、俺も見習う点が多いよ」


俺は彼と新店を経営していくうちに、色々と足りないものがあったんだ、と知った。

例えば珈琲とココアしか出さない店でも、お客様がゆったりと落ち着いて過ごせるにはどうすればいいのかを彼に学ばせて貰うことが出来た。


「来週には、前の店へ戻らせて貰えそうなんだ」


約束の一月が来て、俺は安堵するように蓮見に言った。


「もう一月経つんですね。早いですね、月日が過ぎるのは」


楽しみですか?と問われ、少しは複雑な心境も混じる。だが……


「嬉しいよ。俺はあの店でやっと何をすればいいのかを掴んだばかりだったから」


それを投げ出して来てしまった。

あれから彼女の職場にも電話をかけたんだが、彼女が出勤してると聞かされただけで、変わりましょうか?と言う社員の声には、「いえ、いいんです」と断った。


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