珈琲プリンスと苦い恋の始まり
だけど、何をどうやって話せばいいのか順番が分からず、結局何も言い出せないままに「いいえ、何も」と返事した。


「毎日暑いせいかな。頭がぼうっとして、しゃんとしないんです」


「ああ、それなら自分も同じですよ。お経を唱えててもぼんやりしそうになるし、脱水かな…と思ったりもするんだけどね」


脱水だといけないからペットボトルを持ち歩いてるんだと見せてくる。


「袂に隠してるんです。それなら外見上はカッコ悪くもないだろうから」


坊主が外見を気にしても仕方ないけど、と微笑み、私は口先だけに笑みを浮かべる。

真壁さんは私の表情を窺うように見つめ、「もしも良かったら」と声を発した。


「少し写経に付き合いますか?頭がぼうっとしてても、お経を書いてるうちにシャキッとしてきますよ」


次のお参りまでの小一時間程度です、と言われ、私は目を見開いた。


「お願いします!」


写経には前から少しだけ興味があった。

自分の慰めにもなるんじゃないか、と本屋の前でじっと眺めることもあったくらい。


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