珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「私の前から、これ以上大切なものを無くさないで。
これ以上失ったら私、今度こそ本当に、自分を失わせそうになるかもしれません…」


孤独になることを恐れる余りに、何度か自殺を考えた。

でも、それだけはしてはいけないと自分に言い聞かせて、何とか今日まで堪えてきた。


「私はいつの日か仏様の居る場所に行くんだろうと思います。…でも、こんなに次から次へと無くしてしまったら、それも放棄したくなる」


彷徨う方を選んでしまうかもしれない。
それくらいこの最近の自分の気持ちが危うかった。



「私……」


その言葉の続きを頭の中だけで考える。

脳裏に浮かんでくる顔を思い出し、泣き出しそうになる声をぐっ…と堪えた。

零れ落ちる涙を指の腹で拭い、深呼吸を繰り返して平常心を回復させる。

そうしてると何とか自分が保てそうな気がしてきて、「また伺わせて頂きます」と合掌した。


気を落ち着けてから写経の道具を片付け始めると、法要から戻った真壁さんが本堂に来て。



「お帰りなさい」


少し微笑んで挨拶をした。

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