珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「急にそう言われてもポンとは出てきませんけど」


弱った様子で皆にも視線を走らせ、そのついでに室内の様子を窺っている。


「今日初めて見ましたけど、毎回こんな風に設えてるんですか?」


驚きと同時に呆れた感じにも聞こえた。
少々同感もしたが、社員達の善意でもあるし、そこは敢えて無視をしておいた。


「そうよ。少しでもノスタルジックな雰囲気に仕上げたいから」


藤枝さんはビシッと妥協を許さない雰囲気で言い返し、彼女は「ふぅん」と納得する。

その後で暫く無言を続け、何かを考えるかの様な眼差しで、室内の壁や設えた小物なんかを見つめていた。


「……もうあっさりと『古民家カフェ 悠々』にしちゃえば?」


そう言うとカタンと椅子を立ち上がり、「それが一番利用者にも分かり易いんじゃない?」と訴えた。



「…あ、そうか」

「別に色々と悩むこともなかったんだ」

「なんだ。そうよねー」


事務所の社員達はホッとした様に笑いだし、「さすがは江崎ちゃんだね」と褒めている。

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