珈琲プリンスと苦い恋の始まり
俺はさっきまでの気怠さを何処かへ吹き飛ばし、颯爽と歩きだしてタクシー乗り場へと向かった。

真っ直ぐに店へ帰るつもりだったが取り止め、市内のホテルへ行ってくれと頼んだ。


明朝は其処から『琴吹グリーン』に電話しようと決め、桜を売った会社にアポイントが取れたら、直接そっちへ行こうと考えた。


何かの形でもいいから、再生を願いたかった。

彼女の名付けに深く関わった木を、彼女自身に返してやりたい…と願った。



(待っててくれよ。絶対に喜ばせてやるから)


窓の外に広がる夜景を見つめながら胸が躍る。

あの小さくて華奢な女性が、全身を震わせて喜ぶ姿を想像し、一人でニヤつきながら手を固く握りしめた……。


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