珈琲プリンスと苦い恋の始まり
出向先の新店を出てから二日後、俺は『White moon』にようやく帰った。

ホテルに泊まった翌日は精力的に動き、丸一日を費やして、造園業者と家具屋へと移動した。


造園業者では、桜の木のことを訊いた。


「あの木は樹齢が百年近い状態にも関わらず、虫も食ってなくて元気でした。年輪が南の方向に向かって大きく伸びていて、ハッキリとして、切らなければいけないのが本当に惜しいような感じでしたよ」


その話を聞いて、改めて親父を馬鹿野郎だと罵りたくなった。

桜の木があったからこそ、あの古民家が守られてきたんだと思え、益々彼女に対して申し訳ない気持ちが広がった。


「桜を売った会社ですか?ええ、直ぐに連絡を取れますよ」


『(株)琴吹グリーン』の社長は、ニコニコ顔で相手にアポイントを取ってくれた。

家具屋の名前は『ツリー・リング』と言い、『年輪』のように息の長い家具を作りたいとの願いを込めて付けられたと伺った。


そこの社長はまだ若くて、二十代後半か三十歳丁度くらいだろうと教えられた。

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