珈琲プリンスと苦い恋の始まり
オフィスに出向くと、会社と言うよりかは工房みたいな感じの建物で、そこの中にはくっきりとした綺麗な年輪を浮かべた大木が、幾つも並べて置かれてあった。


「貴方が琴吹さんの仰ってた方ですか?」


確か白川さんでしたね…と話す女性は、自分がこの会社の代表者だと挨拶した。


「菰田まどか(こもだ まどか)と申します。よろしくお願いします」


名刺を差し出してくるのを見ると、それも薄い木の板で出来ている。


「この名刺は、貴方が知りたいと言っていた桜の木で作りました」


記念にどうぞ、と無記名のものが手渡され、俺はそれをぎゅっと両手で握った。


「……あの桜はまだ残ってますか?」


残っていて欲しいと願いを込めながら訊ねると、菰田さんはほっこりと笑い。


「彼処に並べてあります」


俺の背中の壁を指差した。


「あの壁に立て掛けてある材木全部がそうです。
あの木は本当に健康で、捨てる部分も少ないから重宝しています」


あれでいろいろな物を作りました…と話し、その写真を収めたアルバムを持ってきてくれた。


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