珈琲プリンスと苦い恋の始まり
二人の女性達は話をしながら自分達の車へとやって来る。
俺はまだ門の前に車を停めておらず、エンジンも切り、代わりに窓を全開にしていた。


「愛花、今日はこれからどうするの?」


事務員の声がして、俺の胸はドキンと弾んだ。


「んー、別に。これと言って用事も何もないけど」


「撮影は?」


「今日は行かない」


「じゃあ真っ直ぐ家に帰るの?」


「それも未定」


「何よ〜それ」


話しにならないと話す相手に、彼女は肩を竦めたようだ。


「…あ、そうだ。お寺に行ってみようかな」


「えっ!?お寺!?」


「そう、この時間から蝉の脱皮が始まったりするの」


それを撮影しようか…と言う彼女の言葉に、事務所の社員が笑った。


「愛花、それ肝試し並みに怖いよ」


笑いながら自分達の車に乗り込んでしまう。

俺はついうっかり話に聞き惚れていた…と気づき、慌てて自分もエンジンを掛けた。


そろりと坂を上り始めると、最初は彼女以外の車が発進して出てくる。

その後を追うように見覚えのある車種が出てきて、俺はその背中を見失わないように…と、祈りながら追いかけた。


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