珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「あの!」


背後にいる彼女が声を発する。
俺は彼女の方へ目を遣り、また真っ直ぐ前を向いた。


「この人は、私の菩提寺の副住職さんです!」


声を絞るように出した彼女は、は…と短い息を吐いた。


「……それから、こっちはボランティアで職場に来ていた喫茶店のマスター……」


俺のことを息を吐き出しながら紹介して、そのままぎゅっと背中の服を握りしめた。


俺はビクッとして振り向いた。
彼女の顔は地面に向けられたままで、俺には顔を見せてなかった。


「……ずっと、何処かに行ってた人で…私に……嘘ばかりを吐く人……」


そう言うと手を離し、俯いたままで肩を震わせる。


「……どうしてこんな場所にいるのか分かりません。……貴方には他に…行く場所があるでしょ……」


そっちへ行って、と願うように踵を返す。
俺は彼女の方へと向きを変え、手を伸ばしてその体を止めようとした。


「まっ…」


ポン、と肩に手を置かれてしまう。
振り向くと男性が渋い顔つきでいて、「どういう意味ですか?」と問いかけてきた。


< 246 / 279 >

この作品をシェア

pagetop