珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「江崎愛花と言います。…初めまして」
初めてではないから少し言い淀んでしまう。
それを悟られはしないだろうかと窺うと、喫茶店のマスターだという男性は、少し会釈を返して口元に笑みを浮かべた。
正直言ってイケメンの部類に入るだろうな、と思った。
同じ仕事をしている田代さんも彼の店に行ったことがあると言い、「素敵な人よね」と話してたから。
(でも、私は騙されない!)
ある種の怨みたいな思いを胸にしたままセンター長の言葉を聞く。
私のアイデアを借りたいと言った梨華の言葉の意味が分かり、どうしてこんな人の為に…と若干イラッときてしまった。
けれど、目線を皆に向けると期待に満ち溢れていて、自分の個人的な感情を此処でぶつけるのもおかしいとも思う。
それに、何気なく視線を這わせると凄く懐かしい雰囲気に室内が整えられている。
嘗て祖父母と住んでいた家の雰囲気にも似ていると思え、あの時と同じ空気がこの会議室内に漂っていると感じた。
「……もうアッサリと『古民家カフェ 悠々』でいいんじゃない?」
言った側から言わなきゃ良かった…と後悔が走る。