珈琲プリンスと苦い恋の始まり
ちらっと壁に掛けられた垂れ桜の写真に目を向ける。
女性社員もそっちに視線を走らせ、「ああ、なるほど」と頷いた。


「他にも見てみたいと言ったら此方に写真集があると教えられましてね」


照れくさい気持ちを感じながら話すと、ガラス戸の向こうにいる女性は微笑んだ。


「そうなんですか。じゃあ借りて帰られたらどうですか?愛花の写真集は大体の人がもう見てますし、土日を挟むから来所者もありませんから」


その方がのんびり見れますよ、と勧める社員の言葉に甘え、それじゃ帰りに借りていきますと返事した。




その日の出張喫茶店も賑わった。
午後一時からの開設と同時に利用者が続々と集まり、会議室内はあっという間に満員になる。

それぞれがお気に入りの場所で珈琲やココアを味わいながら談話をし、俺はその様子を見て、こういう雰囲気もまたいいな…と考えていた。


悠久の流れを感じるとでも言うのだろうか。
高齢者が集い、まったりとした時間を送っている。

若い頃には仕事や家事に勤しんできたであろう者達だけが味わえる特別な空間を共有出来ていることに、意義みたいなものを感じるようになっていた。


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