珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「マスター、珈琲淹れて頂戴」


執事を使う奥さまの様な声が聞こえて目を向けると、昨日も店にやって来た山本さんだ。


「今日は皆で行ってみる?と話して来たんだよね」


閉店時間まで居座わりそうな雰囲気で喋り出す。

俺はその様子に溜息を吐き、お湯を沸かし直しながらチラッと彼女の横顔を盗み見た。


彼女は白いキャップを脱ぎ、時折笑いながら皆の話を聞いている。
若い女性でいるのは彼女一人だけで、仲が良さそうだった事務所の社員は来ていない。


俺は、彼女が写真集を借りて帰ったことを聞いて此処へ来たんじゃないだろうかと疑っていた。

事務所の女子社員や山本さんが、余計なことを彼女に言ってなければいいんだが。


(……まあ問われたら、興味があったと答えればいいだけなんだが)


問われる前から意識して言い訳を考えた。

妙にソワソワしながら人数分の珈琲を淹れ、その間に借りて帰った写真集をさり気なくカウンターの下に隠した___。


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