珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「愛花ちゃん、今日もこの後撮影に行くの?」


珈琲を持ってテーブルに近付くと同時に、山本さんが彼女に対して訊いた。

彼女は一瞬言葉に詰まりながらも「ええ」と頷き、「何処へ?」と問われて迷うように目線を動かした。



「……灯台を写しに行こうかな…と思ってます」


「灯台!?」


山本さん達は驚く様な声を上げる。
彼女が「うん…」と頷くのを見て、別の社員が口を挟んだ。


「灯台って、あの海を照らす島の灯台のこと?」


その言葉に他のおばさん連中が顔を見合わせる。


「ええ。これから光の灯る時間にもなるし、いい写真が撮れそうな気がして」


「いいわねー、なんかロマンチックで」


「夜の灯台か。私も旦那と行こうかなぁ」


山本さんがそう言うと、周りを取り囲んだおばさん達が大笑い。


「ムリムリ」


「あんたん家の夫婦が行っても、ロマンチックとは縁が無さそう」


「精々ビールとイカを片手に乾杯して、冗談言い合っておしまいでしょ。やめときなさいって!」


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