珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「この店から上り線の道路を走って三十分くらい行った辺りかな。島に渡る大きな橋が見えてくるんだよね。

その島の突端には、明治時代に作られた灯台があって、今日の撮影ポイントは其処の近くの海岸だと愛花ちゃんが言ってたでしょうが」


当然撮影してるとこ見に行くよね〜?と猫なで声で言われ、ぞっと悪寒を走らせながらも「どうして俺が…」と訊き返した。


「だって、マスター愛花ちゃんのことずっと見てたもんね。おばさんが見てないと思ったら大間違いだよ」


自分のことをおばさんと認めた山本さんは、再び掌を見せてニヤつく。


「だから、情報料」


ちゃっかりしていると言うか、どこまで図々しいんだ。


「分かりましたよ、今日のところは珈琲代は無料で構いません」


早く出て行って欲しいからそう言った。
出たら塩を撒くつもりでいると、山本さんはしめしめ…とニヤついた表情で笑いかけ、「それじゃまたね」とドアを開ける。

パタンと閉まったドアの向こう側では、同僚のおばさん達との掛け合う声が聞こえ、それぞれが自分達のマイカーに乗り込んで帰り始めた。


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