珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「……やれやれ。とんだ悪魔だな」
呟いて店を閉めるか…とカウンターの外に出た。
ドアを空かすと闇が近づき始めた庭先では、まだ一台の車が残っている。
(ん?)
誰のだ…と思いながら外へ出てみると、カメラを手にした女性が、庭先から見える空や海の景色を撮っていた。
店から俺が出て来たのにも気付かず、真剣な眼差しでレンズが写す被写体を見つめている。
パシャ、パシャ…と連続してシャッターを切り続ける彼女の姿に呆然としながらも、暫く声をかけずにその場に立ち尽くしていた。
「はぁ…」
一頻り撮った彼女が深く息を吐き出す声が聞こえ、ハッとして我に戻る。
カメラを構えていた彼女も、振り向きざまに俺の存在に気付いたらしく、バツが悪そうに目を背けて車へと向かいだした。
「…あっ!ちょっと!」
思わず声をかけたが、どうしてなのかは分からない。
ただ、島の灯台を写しに行くと言っていた彼女に、同行をしても良いかと訊ねてみたい気がしたんだ。
だけど彼女はやっぱりと言うか、当然な雰囲気で無視をして逃げ去る。