珈琲プリンスと苦い恋の始まり
午後六時、終業を知らせる壁掛け時計のメロディが流れ、同僚の田代さんと共に顔を上げた。


「早いわね。もう六時だって」


あーやれやれ…と椅子を後ろに下げながら立ち上がる彼女に合わせて、自分もうーんと背筋を伸ばす。

利用者が帰ってからでないと出来ないデスクワークの片付けを始め、自分のバッグを手にしたところへ後ろから声を掛けられた。


「…ねぇ、ちょっとちょっと」


振り返るとドアを開けてるのは、厨房で働く調理員の山本さんだ。田代さんは彼女に向いて「どうしたの?」と声を返し、ガラッとドアを大きく開いた。


「皆で一緒にお茶へ行かない?」


『White moon』に…と言う声が聞こえ、ピクッと眉尻を引き上げる。

田代さんは、残念だけど孫が遊びに来るから…と言って断り、後ろを振り返って「愛花ちゃんは?」と訊いてきた。


「え…私?」


「何も用事がないなら行けば?まだ彼処の珈琲を飲んだことないって言ってたでしょ」


イケメンなマスターもいるよ、とウインク付きで勧められ、(誰が行くもんですか!)と心の中で叫んだんだけど__。


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