珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「この間から俺を見る度に逃げ出すのはどうしてなんだ」


純粋に疑問をぶつけると彼女はぐっと口籠る。
俺はその顔を見下ろし、もう少し意地の悪いことでも言ってやろうかと思ったんだが。


「……まあいいけど、一つ聞かせて欲しい。
あの悠々に飾ってある桜の写真、あれは君が撮ったんだろう?
どうしてあの枝垂れ桜に『祖母』って言葉が添えられてあるんだ?それと、君の作った写真集の中に人物が一枚も写ってないのはどうして?」


一つと言いながら二つの疑問をぶつけてみる。
彼女は驚いたように俺の顔を見上げて、それから直ぐに視線を外した。



「貴方に答える必要がありますか?」


目を伏せたまま厳しい口調で訴える。
そう言われると答えに困るが、純粋に「知りたい」と思っていた。


「あの桜の写真も写真集も、観てくれる人にただ受け止めて貰えばいいと思って寄贈しました。
あれを観て疑問を感じたり、批評をして貰おうなんて思ってない」


そう言うと、強引に自分の方に腕を引き寄せて俺の手を外す。
それからこっちを睨み付け、フイと背中を向けて歩き出した。


「ねぇ!」


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