珈琲プリンスと苦い恋の始まり
益々声を張り上げるが、こっちはサッパリ分からない。


「えっ?桜?」


首を傾げると苦々しい顔つきで睨まれた。
そんな顔をされても、俺は困惑するしかないのだが。


「あの…お客様、誠に申し訳ありませんが、私には何のことだかサッパリ…」


桜って何だよ。
それがあんたと何の関係があるんだ。


そんな気持ちで言葉を返した。
彼女は俺に言っても無駄だと気付いたのか、ぎゅっと唇を噛んで踵を返した。



「あっ!お客様…!」


声をかけても振り向かず、そのまま店を出て行ってしまう。
シルバーのアルミケースを肩から下げ、傘代わりのような三脚を手にして。



「何だよ、あれは」


白いキャップにポケットが沢山付いたベストを着ていた風変わりな女性客の背中を見遣る。

まるで突風の如く去って行った彼女を、俺はその後何度か思い起こして過ごした。


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