珈琲プリンスと苦い恋の始まり

「……なんだ。アメフラシじゃない」


仕様もなぁ…と言いたかったが黙る。
この人は都会の人だから、こういう生き物に触れ合ったことがないんだ、きっと。


「アメフラシ？これが？」


黒っぽい個体をじっと見返す。
そうか、これが…と感心したように呟き、私はその顔に向いて「そうよ。ウミウシとも言うでしょ」と教えた。


角みたいのがあるから…と膝を折り、指先を海水の中に差し込んでそれを突く。
その途端、伸びてたものはきゅっと縮み上がり、私は可愛いと思って、優しくその背中を撫で擦った。


「…わっ！…気色悪くないのか？」


私の行動を見下ろしてる人が眉間に皺を寄せる。
こっちはその顔を下から見上げ、「ちっとも」と平気そうに返した。


「毒とかないのか？」


「毒？そんな変な生き物じゃないよ」


田舎を嘗めんな…って気持ちで言うと、ほっとしたようにしゃがむ。私よりも頭一つ分くらい高い位置から潮溜まりの中を見つめ、「ふぅん」と感心したように唸った。


「そうやってるとペットみたいだな」