珈琲プリンスと苦い恋の始まり
クスッと笑って楽しそうだ。
私はそう言われると不愉快な気分で、貴方も触ってみれば?とアメフラシを掌で掬い上げた。


「わっ…!」


大袈裟な声を出して上半身を仰け反らす。
私は個体を掌に乗せたまま彼に向け、「はい」と更に腕を伸ばした。


「持ってみてよ。案外と気持ちいいよ」


葛饅頭のような感じ…と言うと、一瞬疑うような眼差しを送ってくる。
それでも私の言葉を信じようとしたのか、おずおずと掌が近づいてきた。


アメフラシをじっと見つめたまま、表情はまるで真剣そのもの。
私はそんな彼の様子が可笑しくて、イタズラ半分のつもりでアメフラシを放り投げた。


「わっ!!」


驚いた彼がキャッチをし損ねて潮溜まりの中に落っこちた。
その衝撃に驚いたらしいアメフラシは、背中から紫色の液体を排出させてしまった。


その滲み出るような液体を見つめ、彼の表情が強張る。
「大丈夫なのか?」と心配そうに聞くから「全然平気よ」と教えた。


「あの紫色のは防衛本能が働いてる証拠なの。敵に襲われた時とかにあの色の付いた液体を出して逃げるのよ」


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