珈琲プリンスと苦い恋の始まり
さっきよりも太陽が沈んでる。海鵜の集まる岩礁まで行ってたら、先に陽が落ちてしまうかもしれない。


仕様がない…と溜息を吐き出して隣の大きな岩の上に登る。
そのままそこでシャッターチャンスが来るのを待ってると、アメフラシを手に持って観察していた彼が隣に来た。


「俺、こんな岩場に初めて来たけどいろんな生き物がいて面白いよな。
さっきはイソギンチャクも見つけたし、干からびたクラゲまでいたよ」


子供みたいに目を輝かせてる。
私はその顔を横目で捉えながら可笑しくなり、笑いを噛み締めて「ああ、そう」とツレない声を返した。


「この町にずっと住んでたら大して珍しくないかもしれないけどさ、俺は初めて実物を見るからどれを見ても珍しくて楽しいよ」


キョロキョロしながら岩に張り付いた貝なんかを探してる。
落ち着かない人…と思うけど、何となく父に似てるから許そうと思えた。



彼と夕日が落ちだすのを待ちながら、誰かと二人でいるなんて久しぶり過ぎて、何だか緊張するなと思った。

でも、私と違って彼は普通で、貝や他の生き物を見つけては「これは何だ?」と聞いてくる。


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