珈琲プリンスと苦い恋の始まり
まるで自分が幼い頃に似てる。
大の大人が、本当に子供みたいで可笑しい。


「くくっ…」


笑い出しそうになって慌てて口を噤んだ。
彼は不思議そうに首を傾げたが、それにもつい吹き出しそうになってしまった。


(…駄目だ。知らん顔しておこう)


相手にしないでおこうと視線を海に向ける。
水平線に迫ってた太陽はさっきよりも更に沈み、周りに棚引いてる雲を熱気で払うように落ち始めた。


カメラを向けて撮り始める私を見て、彼も同じように目線を海へ向け直す。
微かに息を吸い込んだ後は無言になり、沈みゆく夕日を見守ってた。




「………凄いな」


先端の部分までが水平線の下に隠れてしまうと、彼はようやく口を開いた。
私がカメラをケースに直すのを見つめながら、太陽が海に沈むところを初めて見た、と語った。


「感動した!」


そう言うと深い息を吐きだす。
「そう」と抑揚のない声を返した私は、もう用事は済んだとばかりに岩から降りようと立ち上がった。


「あっ!」


「危なっ!」


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