珈琲プリンスと苦い恋の始まり
岩場から道路を渡って車の所まで戻ると、彼は私に「これからどうする?」と聞いてきた。


「どうするって、家に帰るよ」


当然とばかりに話すと、ふぅん…と低い声で唸る。
そうか…と残念そうに肩を落とし、家は近くなのか?と訊き返してきた。


「此処から車で四十分くらい離れた所よ」


隣の市に住んでるんだと言うと、大袈裟に驚かれた。


「いつもそれくらいかけて通勤してるのか!?」


遠いな、と言うもんだから普通よ、と答えた。


「田舎では普通に通勤圏内よ。電車の数だって都会とは違って少ないから当たり前」


それじゃ…と車のロックを外すと、彼は慌てたように「待った!」と声を上げた。


「ねえ、帰る前に店に来いよ。珈琲でも一杯奢るから」


「えっ?いいよ」


胡散臭さマックスで断ると、彼は「そう言わず」と引き止める。


「俺、君の撮った写真が気になるんだ。さっきの夕日もその中に入ってるんだろう?」


肩からぶら下げてるカメラを指差し、見せて欲しいと強請るもんだから、こっちは少し躊躇った。


< 69 / 279 >

この作品をシェア

pagetop