珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「この店、せめてスコーンでも置くべきだよ」


コンビニで買ったという三角形のスコーンを片手に珈琲を啜るのは、近所に家を構える常連客のおばさんだ。

彼女は割と早い段階からこういう行動に出ていて、俺は呆れながらも毎度注意をしないで黙認していた。


「店に来ても毎回珈琲とココアだけなんて、面白味ないよ」


国道沿いに店を出してる意味がないとまで言われ、俺は仕様がなく「ハハハ…」と笑う。


「スコーンが駄目ならクッキーでもいいよ」


要は何か茶菓子になるものを置いておけと言いたいらしく、それは俺の親父にでも言ってくれよ、と反論したくなるのだが。


「誠にすみません。珈琲とココアしか置かないのがうちの社のウリなので」


田舎のおばさんには分かんねーだろうな…と思いつつお断りを申した。
俺のツレない言葉に、おばさん(名前は山本さんと言うらしい)は「チッ」と小さく舌を打つ。


「詰まんない会社だね。そのうち行き詰っても知らないよ」


我儘が通らないものだから、次は脅しのような文句を吐き出した。
これまでにも似たような輩はいたが、おばさんは初だな…と呆れる。


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