珈琲プリンスと苦い恋の始まり
面倒くさい上に少ししつこい人だと思いながら、それ以上はリアクションも起こさずに引き戸の方へと向かった。


ドアをスライドさせると空の闇は広がり、辺りは薄暗くなってる。
彼は足元に気をつけてと言うと外灯のスイッチを入れ、私を外まで見送ってくれた。


彼の前に立ち、来た時と同様に庭の一角を見つめる。

以前とは違う庭の景色に胸を軋ませながら足を進ませ、くるっと振り返ると背の高い彼のことを見直した。


「気をつけて帰れよ」


そう言いながら彼は手を上げる。
その様子を見遣りながら胸が鳴り、きゅっと唇を噛み締めた。


何故だか知らないけど離れがたい人だと思った。
この家にいた所為なのか、それはどうにも不明だけど。


「ありがと。おやすみ」


誰かにおやすみを言ったのは久し振りだ。
一人暮らしでもないのに我ながらおかしい。


ジャリと足元の石を踏み鳴らして踵を返す。
車のライトを点けて敷地を出るまで、彼はずっと見送り続けていた。


そんな彼がバックミラーの視界から消えるのを確認した後も、何故だかずっと見送られてる様な気がした……。



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