珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「『SAKURA』って多分、桜から付けてるんだよな」


そう言いながら彼女のフルネームは何だったろうか…と思い返す。桜と何か関係がないかと思ったんだが。


「なんて名前だったっけ」


悠々で対面した時に聞いた様な気がするんだが……


「それに総務の社員も言ってたよな。確か……まなか……とか…」


どういう字を書くんだろうか。
この頃は名前の漢字も色々だしな。


悩んでも思い付かず、また誰かに聞いてみようと諦めた。

自分はこの店の常連だと吹聴してる山本さんでも別にいいか。


「…でも、あの人に聞いたらまた情報料とか言われそうだな」


あり得る…と笑って彼女が飲んだマグカップを手にする。
自分の分と一緒に洗いながら、二人で過ごした時間を思い返した。


俺がカメラを覗き込んでる間、彼女は時折上を向いたり店の中をキョロキョロと見渡していた。

何かを思うように視線を止めては悲しそうな表情をして、ぎゅっと唇を噛み締めていた。



(そういうの、俺が見てないと思ってるんだろうな)


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