珈琲プリンスと苦い恋の始まり
こう見えても、結構人の表情を見るのは好きなんだ。
珈琲を飲む客の様子を常日頃から窺ってる所為だろうか。


(彼女はこの家と何か縁でもあるんだろうか)


本人に聞いても話しそうにないが、誰に聞けば分かるだろう。



(……やっぱりあいつかな)


この店に行けと俺に言った相手。
親父なら、この店に関する情報を何か持ってるに違いない。


(月末の収支報告の時にでも聞いてみるか)


そう決めて店を出ようと玄関先に赴いた。

さっきは此処から帰り始めた彼女を見送りながら、闇に溶けてしまいそうな程、細い背中をしているなと考えた。


まるで子供みたいに小さかった。
消え入りそうで、儚そうに見えた。


「SAKURAか……」


印字されている写真集の表題。

桜色に溶けてしまいそうな白色の文字が、まるで彼女自身のことを表しているように感じた__。


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