珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「あの…つかぬことを聞きますが、彼女……江崎さんの名前の漢字ってどう書くんですか?」


「え?愛花ですか?『愛』に『花』と書いて『まなか』ですよ」


「『愛』と『花』?」


「そう。愛花のお父さんが付けたんですって。桜の咲く時期に生まれた彼女が、その花のように人々から愛される人になって欲しいと思って名付けたと聞いてます」


「桜のように愛される人に?」


「そうですよ。愛花はそれを話しながら、『烏滸がましくて恥ずかしい名前だ』と言ってましたが」


ちらりと彼女に視線を向け直し、事務所の社員は「でも…」と続ける。


「愛花には合ってると思うんですよ。あーしていつもお年寄りの輪の中で笑ってるから」


お年寄り達はこぞって彼女のことが好きだと話している。俺はその言葉を聞きながら「成る程」と頷き、「そうでしょうね」と声を返した。


「マスターも愛花のことが好きみたいだと言っておきましょうか?」


振り返った彼女が笑いながらそう言うものだから、俺は慌てて遠慮した。


「いや、それは…」


「ふふ。冗談ですよ」


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