珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「実は、センター長や事務員なんかも此処の珈琲を飲みに来たことがあるらしくってね。この間、会議中にその話題になったんだよね」


「はあ」


そうなのか…と再び相槌を返す。さすがは狭そうな田舎町だなと思っていると……


「そこの場で、此処の珈琲を職場でも飲めないだろうか…って話になってさ」


「はあ」


まさかテリバリーの申し出かな…と窺ってると、山本さんはニヤリと笑い。


「私が此処の常連客だと話したら、皆が珈琲の出前は出来ないかを聞いてくれと言い出してね。私も頼まれると断れない質なもんだから、『別にいいよ~』と安請け合いをしちゃったんだよね」


カラカラと笑い飛ばす山本さんを見ながら、やはりデリバリーの希望かと思った。
それなら基本は淹れたてを出したいんですが…と断るつもりでいると、山本さんは笑うのを止めて。


「出前を頼みたいのは職場の社員に向けてじゃなくて、センターに通ってくる利用者に此処の様な本格的な珈琲を飲ませてやれないかな…ということでさ」


大真面目な顔で話され、思わずキョトン…としてしまった。


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