珈琲プリンスと苦い恋の始まり
ようやく車が途切れて自分の車の元へと渡ったが、その頃には彼がすぐ近くまで来ていて、全く無視をするという訳にもいかなくなった。


「何してたんだ?あんな所で」


息を切らしてる彼が近寄り、私に向いて声をかける。
こっちは泣いてた顔を見せるのも嫌で、「別に」と言ってそっぽを向いた。


「もしかして、うちの店に来ようとしてた?」


手に何も持ってなかったからそう思ったのか、私はバツが悪そうに「いいえ」と声を返す。

まさか回想に浸ってました…とは言えず、知らん顔を決め込もうとした。


「どうでもいいけどさ、折角会ったんだから来いよ。丁度店じまいも済んだし幟を回収しようかと下りて来た所なんだ」


ついでに手伝ってくれると助かる、と言う。
どうして私が?と言い返しそうになったけど、反抗するとバッチリ顔が見られそうな気がした。



「いいけど」


顔を俯いたまま彼が歩き出した後ろを追う。
店に続く坂道の麓から立ってる幟を次々抜き取り、それを束ねて坂を上りだす彼の手伝いをした。



「サンキュー。助かった」


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