珈琲プリンスと苦い恋の始まり
泣いてた所為なのか、ほんのりと甘いカフェオレが胸に沁みて、寂しさが少し癒された様な気がした。



「…今朝さ、君の職場に行ったんだよ。週末に借りて帰った写真集を返しに寄ったんだ」


カウンターチェアに回り込んでくる彼の声が聞こえ、ピクッと肩を揺らす。
「もしかして聞いた?」と窺う彼に目線を向けず、小さく首を縦に振った。


「そうか。実はさ、そこで君の名前の漢字を聞いたんだ。副業のネーミングと何か関係があるのかなと思ったから」


名付けの理由を話したと言ってた梨華の言葉を思い出した。
恥ずかしくて顔を上げれずにいると笑いを噛む声が聞こえ、目線だけちらりと彼の方へと向けてみた。


「名付けの理由を聞いて、成る程…って感心した。桜は確かに人に愛されてる花だからな」


愛花という漢字を意識して喋ってる。それを聞くと更に恥ずかしさが増して、ぎゅっとカップを握る手に力がこもった。


「お父さんが名付けてくれたんだってね。愛されてるんだな、君は」


そう言う声が聞こえ、私は思わず彼を見る。

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