珈琲プリンスと苦い恋の始まり
口角を上げている彼は何も知らない。だから、私が目を向けると少しだけ驚いた表情をして、「何か悪いことでも言った?」と問い直してきた。


「別に」


そう言いながらも不機嫌に変わる。
この人は知らないんたから、無遠慮にものを言っても無理はない。

カップに目線を向け直し、不機嫌な表情のままカフェオレを飲んだ。さっさと飲み終えて帰ろうとしてるのに、彼は更に言葉を続け……


「君のお父さんはロマンチストだな。うちの親父もそうなんだけど、年齢的には同じくらいかな。
それにあれ?もしかして、最初に此処へ来た時に言ってた桜って、その名付けとは何か関係がある?」


確信に迫る質問をしてきて、ドキッと胸が大きく鳴る。
振り向くと彼は悪気もない様子でいて、それを見てると無性にイラついてきてしまった。



「貴方には関係がない…」


でしょう…と啖呵を切りそうになったが、そこへバッグの中から着信音が聞こえ出した。

ビクッとして振り返り、隣の座席に置いてるバッグの中へと手を入れる。

スマホを取り出して見ると「母」とディスプレー表示があり、思いきり深く溜息を吐いた。


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