その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ

部屋に入ると、まず電気を点けて家中明るくする。
〝お互いに酔っているから〟という理由で一緒にここまで来た訳だけれど、実際はもう、そこまで酔っていない。さっき居酒屋の前でしゃがみ込んでいた時にだいぶお酒は抜けて、気分は良くなっている。
課長も、言うほど酔ってはいないだろう。何杯かは飲んでいたけれど、顔も赤くないし、お酒に強いと自分でも言っていたし、ほとんど酔ってはいないと思われる。
だけど、あくまで酔っていることにしないと。仕方なかったとはいえ、酔っていないとなると変な話になってしまう。


「あ、荷物適当に置いて、寛いでいてください。今、お布団敷きますので。あ、課長はベッド使ってください」

男性の上司が自分の部屋にいる……という現実に、さすがに多少動揺しているけれど、それを悟られないよう、冷静に動きながら、冷静にそう伝えた。すると。


「いや、ベッドは幹本さんが使って。それより、一つ確認しておきたいことがあるんだけど、いいか?」

課長が真剣な顔をしてそう尋ねてくるから、私も布団の用意をする手を止めて「何でしょうか?」と真剣に返すと。


「この状況、幹本さんにとっては〝どっち〟が正解?」

「はい?」

「手を出さない方が正解なのか、手を出す方が正解なのか。女性によって答えは違うと思うから教えてくれる?」


……はい⁉︎
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