その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
課長はクスッとどこか意地悪に笑いながら、話を続ける。

「手を出さない紳士として扱われても構わないが、一晩一緒にいても手を出してこないヘタレと思われるのは心外だなと思って」

私の返答次第で、この後……と思ったら顔がカッと熱くなるのと同時に、そんなこと起きる訳あるか! と心の中で自分自身にツッコミを入れる。


「……あくまで、迷惑を掛けてしまったお詫びとして招いただけです。何もないのが前提だと思っておりますので、紳士ともヘタレとも思わないです」

そもそも単にからかっているだけだと思うので、ムキにならず、平静を装ってそう答える。本当は内心、少し慌ててる。


私の答えを聞いた課長は、やっぱりただからかっていたみたいで、

「はーい。了解しましたー」

と、わざとそんな口調で返してきた。うーん、軽い人だと思っていたけれど本当は優しくて、だけどやっぱり軽い人なのかもしれない。
まあ、恋人として付き合う訳じゃないんだし、軽さを兼ね備えていたって別に構わないけれど。


「そうだ。もう一つ聞いていい?」

布団を敷き終えた私に、課長が再び尋ねてくる。
どうせまたフザけた質問だろうと思いながら「何ですか」と聞き返す。すると。


「さっき飲み会の時にさ、相田君が〝幹本さんは男性に興味ない〟みたいに言ってたけど、あれは本当なの?」
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