その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
ほら、やっぱりフザけた質問……とも思ったけれど、課長の顔が真面目なものに見えたから、こっちも少しだけ真面目に答えることにした。


「……興味ないというか、私、男運がないんです。だから、また傷付くくらいなら一人で生きていこうかなとは考えています」

「男運がない?」

「……知っている人も多いので敢えて躊躇わずに言いますが、まず、一番最近付き合っていた男性には、結婚を匂わす発言をされた後、ホテルで全財産盗まれました」

今思い出しても恨めしい。
最近になって、ようやく若干笑い話と化することが出来るようになってきたけれど、当時は心臓が抉られる程の苦しみだった。


「それは……災難だったな」

いつも余裕たっぷりな課長ですら、反応に困ったような表情を見せる。そりゃあ、こんな話をされたら誰でも困るだろうけれど。


「更に辛かったのは、彼氏も全財産も失って失意のドン底にいたのに、部長からは『銀行員が通帳盗まれるってどういうことだ!』って激怒されたことです」

「あー……自行の通帳の紛失したら、隠すこと出来ないもんなぁ。それは俺でも辛い。いっそ笑うしかないな」

「ですよね。フフ……」

「いや、今笑えとは言ってないけど」

それはそうなのだけれど、課長を困らせたい訳でもないので、私は自嘲気味に笑って、この話を自虐ネタとして処理しようとした。


「まあ、警察沙汰になる前に元カレの所在がわかったので、全財産は返してもらったんですけど。
でも、その男だけじゃないんですよねー。私が気付いていなかっただけで実は浮気されてた経験もあるし、 とにかく貢がせようとしてくる男もいたし、何時何分に何を食べたかとか細かく報告させようとしてくる奴もいたなー」

「ほんとに男運ないんだな」

「そうなんです。だから、もう恋愛なんかしないって決めてるんです」

一生独り身というのも辛い気はするけれど、あんな思いをまたするくらいなら独り身の方がマシだと思う。
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