その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
すると課長は「そっかー」と答えながら何故か天井を見つめる。何か考えているようだ。
何て声を掛ければいいのか、どう励ましたらいいのかなど考えているのなら、気にしないでくださいと伝えたい。変に気を遣われる方がキツい。

けれど、課長から返ってきた言葉は、想像していたものとは少し違った。


「それだと、接し方が気楽で助かる」


どういう意味だろう? と私が思わず首を傾げると。


「俺、自分で言うのもあれだけど、結構モテるんだよね」

「そうでしょうね。確かに自分で言うのはどうかと思いますけど」

「だから女性の部屋で一晩二人きり、なんてさ。普通は勘違いされちゃうんだよな。こっちにその気はなくても」


うーん、なるほど。まあ、少なくとも普通の女性なら、武宮課長と一晩二人きりならドキドキしてしまって仕方ないだろう。

……私だって、課長にはバレないように平静を装って振舞っているけれど、本当は少し動揺しているもの。


「君が恋愛に興味がないのなら、俺も変に気を遣わずにいられる」

そう言うと、敷いたばかりの布団に課長がころんと寝転がった。

「布団、良い匂いする」

そんなことを言われ、さすがに動揺が顔に出てしまいそうだ。隠さないと、隠さないと!

「か、課長。私が布団で寝ますから……」

「俺、ベッドより布団派だから」

「そ、そうですか」

そういうことなら布団で寝てもらおう。というか、これ以上話してたら絶対に動揺が顔や態度に出てしまうから、私自身が早く寝てしまいたい!


「お風呂入りますか?」

「明日の朝、シャワーだけ貸して」

「わかりました。私もそうします……」


そんな会話をした後、二人で歯だけ磨いてさっさと寝ることにした。客人用の未使用の歯ブラシがあって良かった。


部屋の電気を消すと、課長は本当に何をしてくることもなく、寝息を立てる。


恋愛に興味がない私とは接し方が気楽、かあ……。
確かに、そうかもしれない。今まで課長に近付く女性の大半は、課長狙いだったことだろう。それでは課長自身も疲れてしまうと思う。


……直属の上司から〝接しやすい〟と言われて、部下としては喜ぶべきことだろう。


なのに、胸の奥がツンと痛む気がするのは……どうして? 気のせい?
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