その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「仕事なんですから笑顔で接するのは当然です。それ以上の理由なんてありませんし、ありえません」
はっきりとそう言い切ると、河野さんも私の返答をわかり切っていたような様子で「そうだよな。悪かったって」と笑って答える。
すると、私の隣の席で書類作成をしていた後輩の相田(あいだ)君が、首をぐるんと回して私の方を見て、
「幹本さんって、美人なのに何で男性と付き合おうとしないんですか?」
と質問してくる。
相田君は、今年の四月に入社したばかりの新人で、少し小柄だけれど短い黒髪がよく似合う、見た目も性格も爽やかな明るい男の子だ。
新人だから、二年前に起きた事件のことは彼は知らない。
勿論それ以前のことも。
「こいつには色々あるんだよ」
事情を知る河野さんが、やっぱり笑いながらそう言うと、相田君は首を傾げて「はあ……?」と答えながらもそれ以上は聞いてこなかったので有難かった。私も〝この話はこれで終わり〟と言わんばかりに、パソコンを立ち上げて稟議書を作成し始める。
幹本 由梨(ゆり)。都内のメガバンクで営業職を務める二十六歳。
女性社員の多くは一般職として事務職に就いている中、私は女性社員の中では数少ない総合職として営業職を行なっている。
同性の相談相手も少ないから、体力的にも精神的にも大変な仕事……と思いきや、同じ支店で働く営業課の男性社員達はみんな親切で優しい人ばかりで、それなりに毎日楽しく仕事している。
はっきりとそう言い切ると、河野さんも私の返答をわかり切っていたような様子で「そうだよな。悪かったって」と笑って答える。
すると、私の隣の席で書類作成をしていた後輩の相田(あいだ)君が、首をぐるんと回して私の方を見て、
「幹本さんって、美人なのに何で男性と付き合おうとしないんですか?」
と質問してくる。
相田君は、今年の四月に入社したばかりの新人で、少し小柄だけれど短い黒髪がよく似合う、見た目も性格も爽やかな明るい男の子だ。
新人だから、二年前に起きた事件のことは彼は知らない。
勿論それ以前のことも。
「こいつには色々あるんだよ」
事情を知る河野さんが、やっぱり笑いながらそう言うと、相田君は首を傾げて「はあ……?」と答えながらもそれ以上は聞いてこなかったので有難かった。私も〝この話はこれで終わり〟と言わんばかりに、パソコンを立ち上げて稟議書を作成し始める。
幹本 由梨(ゆり)。都内のメガバンクで営業職を務める二十六歳。
女性社員の多くは一般職として事務職に就いている中、私は女性社員の中では数少ない総合職として営業職を行なっている。
同性の相談相手も少ないから、体力的にも精神的にも大変な仕事……と思いきや、同じ支店で働く営業課の男性社員達はみんな親切で優しい人ばかりで、それなりに毎日楽しく仕事している。