その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「珍しいね、島月さんがこの時間に食堂にいるの」

「仕事がなかなか切り上げられなくってー。嫌になっちゃいますよね!」

こうして二人きりで話すのももしかしたら初めてかもしれないけれど、気さくで話しやすい感じの子だなと思う。


……けど、


「幹本さんって、彼氏いるんですかぁ?」


という突然の質問には、思わず蕎麦を吹き出しそうになり、むせてしまった。


「その反応、いるんですね⁉︎」

「いや、いないいない!」

ハンカチで口元を拭きながら慌てて否定する。でも、彼氏がいないのは事実だ。


「なーんだ、いないんですか? てっきり、隣の席の武宮課長とイイ仲なのかと思ったのに!」

そう言われた直後、今度は水の入ったコップを盛大にひっくり返す。


「わー! ごめん!」

「いえ! 大丈夫です! えーと、タオルタオル!」

その後、食堂の人に台拭きを借り、すぐに何事もなかったかのように落ち着いたけれど。


「さっきの動揺……幹本さんは武宮課長のことが好きなんですね⁉︎」

彼女の追求は止まらない。


「な、何言ってるの、違うよ」

「安心してください。私を味方につければ、全面的に応援しますよ?」

「だから違うって……」

「……そんな風に誤魔化さなくてもバレバレですよ?」

「嘘⁉︎」

「嘘でーす。全然バレてませんでしたー。カマかけただけでーす」

そう言って楽しそうに笑う彼女。

やられた。普段だったらこんなヘマはしないのに、動揺しすぎて思わず自白してしまった。


……だけど、一人じゃこの先どうしたらいいのかわからずに悩んでいたから、協力者が出来て良かったのかもしれない……?
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