その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
だけど、先程のように〝男を口説け〟だの〝何で彼氏作らないんですか〟などと言われると、私は途端に機嫌が悪くなる。


「私は一人で生きていきますので」

こういう話題になる度に、自分にも相手にも言い聞かせるように、よくこの台詞を言う。


今の仕事をこの調子でこなしていき、営業成績を維持させていけば、将来的に男性にも負けないポストに就けると上司からは言われている。
そうやって、私は仕事を中心として生きていきたいと思う。

総合職に就いたのは、仕事中心に生きていく為でもなく、ましてや一人で生きていく為でもない。寧ろ入社したばかりの頃は〝私もいつか寿退社する可能性があるのかなぁ〟なんて考えることもあった。だけどもう、結婚も彼氏も一切考えない。


もう二度と恋愛なんてしない。



「……ところで、あそこは何かあったんですか?」

営業課から少し離れた場所にある事務課を指差しながら、河野さんにそう尋ねる。事務課の女性達が何人も集まり、何かを話しているのだ。
トラブルの相談かと思ったけれど、皆の顔がやけに嬉しそうなのでそれは違うだろう。


「ああ。明日から営業課長が異動してくるだろ? その人がいわゆるイケメンエリートってやつらしくて、女性社員が色めきだってるって訳さ」

河野さんの説明に、私は「へえ」と頷く。
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