その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「どうしたんですか? こんな所で」

「あぁー……ちょっと探し物で」

「そうでしたか」

私の咄嗟の嘘も、相田君は特に気にした様子はない。いつも通りニコニコ笑顔で私を見つめる。

この子、いつも明るくて元気で良い子だよなぁ。新人にしては仕事も出来るし、気遣いも出来るし……と、そんなことを考えながらつい彼のことを見つめていると、彼もまた、私のことをじっと見つめ返してくる。


「相田君?」

「ああ、すみません。やっぱその髪、似合ってますよ」

私の短い髪を指差して、彼はそう言う。私は「ありがとう」と返すけれどーー


「でも、何で突然切ったんですか?」

「え……」

「……金曜日の飲み会でのことが関係してます?」

慎重に、言葉を選びながらといった様子でそう
尋ねてくる。
そうじゃないよと言えば誤魔化せるのに、彼の目があまりにも真っ直ぐ見つめてくるから、肯定はしなかったけど否定も出来ず、言葉に詰まった。


すると、何故か正面から抱き締められてしまった。

あまりにも突然のことに、頭がついていかない。
一体これは、どういう状況?


「あ、あの、相田君?」

なるべく平静を装って、彼の名前を呼ぶ。

彼は年下だし、年齢も離れているから、彼を異性として意識したかなんか一度もなかったけれど、こうして抱き締められると、流石に多少はドキドキせざるを得ない。


「ああ、すみません」

私から身体を離した彼の表情は、いつもと何ら変わらない、爽やかで可愛い笑顔。

抱き締められたなんて何かの間違いで、今のは彼が立ちくらみを起こしてしまっただけなんじゃないかとも思ったけれど、


「幹本さん」

「……何?」

「俺と付き合ってくれませんか?」


……と。突然の告白を受けてしまった。
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