その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「つ、付き合うってどこへ?」

「うわぁー、ベタなかわし方しますね」

「い、いや、そういう訳では……」


まあ、確かに今の反応の仕方はわざとらしかったかもしれないけれど、彼が私のことをそんな風に……なんて、今まで一度も感じたことなかったのだから、戸惑っても仕方ないじゃないか。


「いつから私のことを……とか考えてます?」

「…….よくわかったね」

「初めて会った時から綺麗な人だなって思ってましたよ。でも、男に興味ないみたいだったからアタックは控えてたんです。だから金曜日は、幹本さんが課長のこと好きって聞いて、驚きました」

「あれは、その……」

「二人が付き合ってんのかなって思ったら俺もさすがにちょっと凹んだんですけど、今日出勤してみたら幹本さん髪の毛バッサリ切ってるし、課長ともよそよそしいし、それってつまり、上手くいってないんですよね?」


上手くいっていないどころか、そもそも何も始まっていない。そう考えたら思わず「はは……」と笑ってしまった。


「じゃあ俺と付き合ってほしいなと思った訳です。説明は以上になります」


話し終わってからも、彼はやっぱりいつもの笑顔を崩さない。

告白くらい、真剣な顔でやってほしい……とは思わなかった。金曜日からずっと落ち込んでいたから、今はこの明るい笑顔に元気をもらっている部分があった。

彼のこと、恋愛対象として考えたことはない。それに私は、課長のことが好き。
だけど……


「勿論、これから少しずつ意識してもらえればいいですよ。今はまだ課長のことが好きなんだろうなってことも、ちゃんとわかってます」


なんて、彼が言ってくれるから……

だから……。


「……うん」


私は彼の申し出を受け入れた。


彼のことを好きになって、課長のことは忘れたい。そう思った。
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