その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「……関係ないじゃないですか、課長には」

答えながら、再び彼から目を逸らす。


「関係ない? 質問の答えになってないぞ」

「答えたくないというのが答えです。私が誰と付き合おうが課長には関係ないでしょっ」

そう返しながら、課長にくるっと背を向ける。


今、顔を見られたくないと思った。
だってきっとーー泣きそうな顔をしてしまっているから。


「……それじゃあ、失礼します」

探しに来たファイルをさっと抜き取り、早くこの場から去ろうと足を動かしたーーその時。


「きゃっ」

後ろから急に肩を掴まれ、驚いて振り向いたのとほぼ同時に、背中が壁に当たった。
目の前には、課長。
私は課長と壁の間に挟まれてしまい、身動きが取れない。


何、この状況。
課長は、眉間にシワを寄せ、何だか怖い顔をして私を見つめている。


「課ちょーー」


彼を呼ぼうとしたその声は、突然遮られる。

課長に、キスをされてしまったから。
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