その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
私が好きなのは…
殆ど無意識で駆け出しながら、携帯を取り出した。

どこに向かったら会えるのかもわからない。そもそも、会って何を話すのかも纏まっていない。

だから、今言いたいことだけをメッセージにした。


【会いたいです】


駅に着くとさすがに走るのをやめ、息を整えた。

このまま家に帰ろうか悩んでいると、手に持っていた携帯が震えた。

メッセージが届いていた。相手は課長で……目を見開くのと同時に胸が高鳴った。


……けれど。



【今どこにいる。バカ】



……と書かれていて。
バカというストレートな単語にショックを受けると同時に、盛り上がりかけていた気持ちが少し落ち着く。



それでも、会いたいという気持ちに間違いはなくて。



【駅です】

【どこの】

【会社の最寄りです】

【家で待ってろ】


……大分素っ気ない返事。普段話していても、課長はここまで口は悪くない気がする。だとしたら、今は機嫌が悪いのか、もしくは単純に私からのメッセージが不快だったのかもしれない。


それでも。家で待ってろと彼は言ってくれた。


本当に来てくれるか自信はなかったけれど、彼を信じて、私は家で彼を待った。
< 56 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop